町工場の手帖 2026年6月
町工場の手帖

2026年6月のご挨拶
今日も有田の工場では、変わらずエギを作り続けています。
6月は、キーストンにとって年に一度の特別な月です。レッドモンスターを狙う7.0号という巨大エギと、ケンサキイカ用の2.5号という小さなエギ──最大と最小が、同じ工場で同時に量産される、不思議な景色が広がります。
その景色の核にあるのが、エギの原型を削り出す金型加工機。
キーストンでは、創業当初から(株)牧野フライス製作所(6135)のマシニングセンタを使い続けています。
■ 牧野フライスとの、長いお付き合い
CADは、牧野フライス製作所まで習いに行きました。CAMも同じく、牧野まで足を運んで学びました。社内では講習会まで開いていただき、技術者の方々から直接、現場での使い方を教えてもらいました。
特に今でも忘れられないのが、牧野フライス製作所のお二人のスペシャリストが、当社の工場に足を運んでくださったときのこと。
一人は、マシニングセンタにワークをセットして実際に切削加工を行うスペシャリスト。もう一人は、CAMでFANUC訛りのNC言語をコーディングするスペシャリスト。
「いまの現場にマッチするのは、どちらの進め方か。M56運転がベストなのかどうか」──このお二人と、機械の前で一緒に議論しました。何時間もかけて検討した末、当時は「M56運転がベストだね」という結論にたどり着いた。そのやり取りを、今でも鮮明に覚えています。
ここまで現場に踏み込んで、一緒に考えてくれるメーカーは、なかなかありません。
四半世紀近く、深いお付き合いをさせていただいてきた会社です。父の代の「牧野フライス製作所」さんとのお付き合いまで含めれば、半世紀以上にわたるご縁になります。
実際、NCフライス加工機、NC放電加工機、NCワイヤー放電加工機、ジグフライス──工場の主要な加工機が、全部牧野フライス製という時期も長くありました。当社のものづくりは、牧野の機械群にまるごと支えられてきた、と言っても過言ではありません。
エギ一つの仕上がりは、結局のところ、金型の精度で決まります。
わずか何ミクロンの違いが、水中での動きを変え、抱きの良し悪しを変える。その金型を削るのが、牧野の機械です。
牧野の機械がなければ、キーストンのエギは、まったく別物になっていた。これは、誇張ではなく、現場の実感です。
■ 国が、技術を守ると判断した
そんな牧野フライス製作所が、今月、報道に登場しました。
2024年12月末日頃に、ニデック社による敵対的買収の話が出てから、不安しかありませんでしたが、今回の日本政府の判断に、本当に救われた思いです。
「日本の精密加工技術を、国として守る」という判断。
当社のような、牧野の機械で毎日金型を削っている立場からすると、これは何よりも嬉しい報せでした。
日本の製造業の根幹には、こういう本物の技術が、いくつも埋め込まれています。
工作機械、CAD/CAM、刃物、計測器、治具──それぞれの分野で、世界に通用する仕事をしている会社が、日本にはまだ残っています。
こうした基盤が「守るべきもの」と認められた──ものづくり全体にとって、大きな一歩だと感じます。
■ 賑やかな外の世界
一方で、外の世界はとにかく賑やかです。
米国政府がUFO情報を公開しはじめ、株式市場は最高値を更新し、AI半導体関連の企業が市場を引っ張り、毎日のように新しいAIモデルが発表される。
マイクロソフトがClaude Codeの利用を禁止したというニュースにも驚きました。
キーストンでは、Claude Codeを取り上げられたら生産性が1024%は落ちる、というくらい毎日使い倒しております。
マイクロソフトとしては、内製化されたLLMや自社のCopilotに集約していく方針なのだろうと推察します。巨大企業ほど、自社製品との関係で「使ってはいけないツール」が出てくるのかもしれません。
正直、追いかけきれないくらいの量です。
ただ、こうしたニュースに振り回されるよりも、自分たちの足元にある技術と、それを支えてくれている会社のことを、改めて見直す時期に来ているのかもしれません。
■ 今日も、削っては合わせる
工場では、今日も牧野の機械が、新しい金型を削っています。
削っては合わせ、合わせては微調整する。何ミクロンか修正して、また削る。
7.0号の巨大エギも、2.5号の小さなエギも、すべてこの繰り返しから生まれています。
賑やかな外のニュースに、現場の手の動きが影響を受けることはありません。
ただ、長く付き合ってきた技術と会社が、これからも続いていく──そのことが、今月、改めて確認できた気がします。
今日も、また一本、確実に作る。それしかありません。
今月も、どうぞよろしくお願いいたします。
令和8年6月
株式会社キーストン
代表取締役 金川 信栄