町工場の手帖 2026年2月
町工場の手帖

2026年2月のご挨拶
2月に入り、朝の冷え込みが一段と厳しくなりました。 工場のシャッターを開けると、冷たい空気が一気に流れ込み、 自然と背筋が伸びる季節です。
その工場があるのは、佐賀県有田町。 小規模な町工場ながら、キーストンは設立当初よりエギやスッテ等を製造し続けておりますが、純日本製を守り続けております。
金属を切削し、樹脂を成型し、 溶剤で塗装をし、ボンドで接着し、 NCをコーディングし、CADで設計をする。
文章にすると簡単ですが、実際にはそれぞれまったく性質の違う仕事です。 削る、溶かす、乾かす、貼り合わせる。 そして、考え、描き、プログラムする。
この25年以上、 それらを行ったり来たりしながら、 同じようなことを、何度も何度も繰り返してきました。
金属加工、樹脂成型、塗装、接着、設計、NCコーディング。 一つの工場の中で、これだけ異なる工程を日常的に扱っている例は、 そう多くはないかもしれません。
とても特殊な工場でありますので、 本日は、その一端をご紹介させていただきたいと思います。
最近になって「Vibeコーディング」という新しい手法が登場しました。
この数か月、隙間時間に試してみましたので、町工場での体験をご紹介させてください。
正直に言って、Vibeコーディングは 強烈に面白い。 感覚で進め、勢いで形にする。 生産性は確かに上がります。
人手も時間も限られた町工場にとって、 大きな可能性を感じる手法です。
ただ、使いながら気づいたことがあります。 それは、後から追いにくいコードが生まれやすいということです。
試行錯誤の中で見えてきたのは、 変数が増え、フラグが立ち、 外部キーが追加され、環境変数が増えていく様子でした。
一つひとつの判断は合理的です。 しかし、積み重なると、 全体像が見えにくくなっていきました。
速く作れても、後から手を入れにくくなる。 そんな経験を何度かしました。
そこで考えたのが、最初に枠を置くことでした。
ここで言う「枠」とは、 具体的にはフレームワークです。
人の注意力や経験に頼るのではなく、 仕組みとして組み込む。
基本はオブジェクト指向。 メソッドは原則 private。 変数も原則 private。 勝手な変数定義はしない。
フラグは極力持たず、 外部キーは「壊れたら本当に困る関係」にだけ使う。 環境変数は、理由を説明できるものに限定する。
こうした制約を、 人の判断ではなく、 フレームワークの構造として先に置くことで、 勢いよく進めても、 後から追える形を保てるようになりました。
振り返ると、製造現場も同じです。 工程には制約が必要です。 治具、手順、順番、公差。 制約があるからこそ、品質は安定します。
一方で、制約が過ぎれば、 現場は何もできなくなる。 判断の余地がなくなり、 異常や改善に対応できなくなります。
良い制約とは、 縛るためのものではなく、 速く、正しく判断するための枠だと考えています。
寒さの残る2月、 足元を見直しながら、 一つひとつ積み重ねてまいります。
今月もどうぞよろしくお願いいたします。
令和8年2月 株式会社キーストン 代表取締役 金川 信栄